
掲載日:2019.02.21
2018年度イタリア研修報告 バローロ編 その1
大学院 酪農学研究科 博士課程1年 髙橋 宗一郎
北イタリアでのワイナリー巡りを終えた私は、ピエモンテ州バローロに向かった。バローロは決してアクセスしやすい場所とは言えず、最寄りの街から列車やバスを乗り継がなければたどり着けない。今回は、イタリア在住のAIS認定ソムリエである丹羽淳子さんにワイナリー訪問の交渉から通訳、当日の移動までお世話になった。バローロエリアの訪問は2日間かけて行ったが、その際には夫のカルロも同行してくれた。実はこのカルロ、職種は全く違うものの、ソムリエ資格を持っており、私は二人のプロフェッショナルの心強いサポートを受けながらワイナリー訪問をすることが出来た。訪問の前日に、アスティという街に入った私は、翌朝迎えに来てくれた二人と共に、銘醸地バローロへ向かった。
バローロが位置するランゲ地方とその周辺のブドウ畑は、その景観の美しさやワインづくりの歴史的、文化的な価値を残すとして、ユネスコの世界文化遺産に登録されている。イタリアを移動していると、ブドウ畑を見かけるのは珍しくないが、この地域はとにかくどこを見てもブドウ畑だった。この地域では黒ブドウ品種のネッビオーロが有名で、ワインになる時には、栽培された地域によって「バローロ」「バルバレスコ」「ランゲ ネッビオーロ」「ネッビオーロ ダルバ」と様々に名前を変える。つまり「バローロ」とは村の名前でもあり、この限られたエリアでつくられたもののみ「バローロ」と名乗れるのである。これはバローロに限ったことではなく、イタリア全土、フランスなどにおいても同じで、ほんの1区画違うだけで、その名前を使えなくなるということも実際にある。
前置きはこれくらいにして、今回は初日に訪問した1軒のワイナリーを紹介したい。
1軒目はLa Spinetta(ラ・スピネッタ)。バローロの他に赤ワインのバルバレスコ、バルベーラ、白ワインのモスカート、シャルドネ等を生産している。醸造設備を案内してもらいながら、特に発酵、醸造工程について質問をさせてもらった。ここでは、数年前にロンバルディア州の大学の研究所と共同で、ブドウ畑から自家製の酵母を単離し、醸造に使用し始めたらしい。これまでの市販酵母を添加する方法との違いは香りに表れてきているという。市販酵母を使用すると、いわゆる「ブドウ品種の香り」が強く出るが、自前の酵母を使用すると、新鮮さや、ブドウが元々持っている香りが強く表れると話してくれた。トレンティーノ・アルトアディジェでの経験に続き、ここでもワインづくりと科学の新たな関わりを感じた。
そして、樽の使い方が日本(特に北海道)とかなり異なることが、とても印象的だった。La Spinettaでは、基本的に3年以上の樽は使わず、新樽か2年目のものを使うという。赤ワインは、樽で1か月間マロラクティック発酵(主に赤ワインにおいて、乳酸菌の働きによって酸度の強いリンゴ酸を乳酸に変化させ、酸味を穏やかにすること)を行い、その後タンクで休ませ、樽での熟成に入る。樽も新樽と古樽のバランスがあり、2014年では新樽が10%、古樽が90%、2015年ではそれぞれ20%、80%という割合で醸造させている。マロラクティック発酵という、ワインに動きがある時期に樽へ入れることが香り等にとって良い影響があるという。こうした樽の使い方は北海道では行われていないため、とても興味深いものだった。品種、気候、ブドウが成熟出来る期間、積算温度が違うので、北海道ではここまで樽を効かせたワインづくりは向かないのである。
ここではLidia Chardonnay 2015, Barbera Gallina2014, Barbera Bionzo2015, Barbaresco Starderi 2012という4種のワインを試飲させてもらった。シャルドネは単独のクリュ(ブドウ畑)でつくられたもので、ドライ、パッションフルーツの香りがあった。Barbera Gallinaはアルバ地域でつくられたもので、砂質、石灰質、泥灰質という土壌の性質から丸みのある印象だが、Barbera Bionzoはアスティ地域の石灰質が際立った土地でつくられたもので、とても角が立った味わいだった。どちらも同じバルベーラ種でありながら、栽培される土地による違いがよく分かった。バルバレスコは、砂質の特徴が表れているが男性的な印象があり、果実味が残っていた。さらに10~15年熟成させると良いのではと、ソムリエたちは話してくれた。
この日、畑を案内してもらうことは出来なかったが、畑にはミツバやマスタード等のハーブを植え、有機栽培にも力を入れているという。大学との共同研究について、土地の性質の違いによるワインの味わいについてなど、興味深い話を聞き、貴重な経験となった濃い時間だった。

ランゲ地方の見渡す限りのブドウ畑

ワイナリー La Spinetta

La Spinetta内のセラー

特に印象的だったバルベーラ2種の飲み比べ