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掲載日:2017.11.06

トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム~地域人材コース(イタリア)活動報告書(10月)

酪農学園大学大学院 修士2年 髙橋 宗一郎

 10月は激動の一か月でした。早くも留学生活の半分が終わってしまったことになります。ワイナリー訪問、研究室での活動、アンコーナ(マルケ州)の環境について順を追ってご報告をしたいと思います。
10月中旬、私はマルケ州と隣接するエミリアロマーニャ州のワイナリーを訪問し、お話を伺い、ワインを試飲させて頂きました。この地域を選んだ理由は、ここがランブルスコという伝統的な微発泡の赤ワインの産地であるためです。またこの州はボロニアソーセージで有名な街ボローニャ、プロシュット・ディ・パルマ(生ハム)やパルミジャーノ・レッジャーノ(チーズ)、バルサミコ酢で有名な街パルマを有しており、世界的にも質の高い食文化を持った地域であると言えます。長い歴史で培われてきた食と向き合い、そこの伝統的なワインや製法を知るため、アンコーナから列車で三時間程かけて行ってきました。
訪問したのはPodere Pradaroloというワイナリーです。ここは所謂自然派のワイナリーで、農薬や化学肥料を使わずにブドウを栽培し、醸造の際にも天然酵母による発酵を行っています。ワインの生産本数は年間25000本程で、イタリアでも最小規模です。しかしながら、非常に恵まれた立地であることは一目瞭然でした。南向きの斜面と、近くの川からくる朝霜、冷涼な風、背後の山、水はけの良い土と大昔海だったという地層……ブドウを育てるための土地と言っても過言ではないほど、抜群の土地、テロワールでした。ここではブドウ畑に様々な種類の植物が共生しており、近くでは牛や鶏などの家畜が飼われていました。なぜあえて自然派のワインを作っているのか聞いたところ、「酵母も土壌や風、気候と同じくテロワールの一部。ここはエトルリア人が見つけてブドウを栽培していた土地だから私たちもそれを大事にしたい」という答えが返ってきました。「歩留まりは悪いし、今年の春の寒波の影響で収穫量も少なかったし、死んでしまった苗木もある」という苦労も聞かせてくれました。それでも、中世と同じ作り方で作られたワインには苦労や手間をかける価値があるものだと彼らは教えてくれました。後から調べて分かりましたが、ここのワインは非常に高い質を誇り、プライドの高いフランス人も一目置くワイナリーだったようです。それでも私を温かく迎え入れてくれ、素朴で飾らない農家の営みを見せてくれました。
こうしてワイナリーを訪問すると、イタリアでのナチュラルワイン(添加酵母を使用せず天然酵母により発酵させたワイン)の評価が気になるところです。日本ではまだ馴染みが薄く、ビオワイン(有機ブドウで作られたワイン)との違いもあまり知られていません。アンコーナで活躍している日本人ソムリエールの方は、イタリアでもそれほど知られているわけではないと話していました。ただ、大学の教授は「自然発酵したワインは他とは違い、素晴らしい味わいを持っており、特別なもの」という評価をしていました。北海道でも、小さい規模で天然酵母による発酵を行っているワイナリーが増えつつあります。私が実際にお会いした方も「酵母はテロワールの一部」として考え、醸造を行っていました。今後「イタリアのナチュラルワイン」も一つのテーマとし、調査していきたいと思っています。

続いて、現在の研究室での活動についてご報告します。こちらの大学では先日卒業式兼論文発表会があり、そこに同席させて頂くことが出来ました。日本の形式的なものとは少し雰囲気が違い、セレモニーのような雰囲気なのが非常に興味深く、家族や友人が花束を持って多く駆けつけていました。私を受けいれてくださった研究室からも三名修了者がいました。そのため、実験をする人数は少々減りましたが、現在も継続して実験に同伴させて頂いたり、一緒に作業をしたりしております。最近は大学院生の学生実験に同行させて頂けるようになりました。果物の樹の枝や葉、実から採取した酵母を培養し、どのような種類の酵母がいるのか調べる実験で、授業の準備や授業後のサンプルの保管など、継続してお手伝いさせて頂いており、基本的な部分を学ぶことが出来ております。現在は3名の学生及び研究者と一緒に研究を見て、お手伝いをしておりますが、今後もそれを続けながら、帰国後に同様の実験、あるいは類似した実験を行えるようにしっかり学びたいと考えております。
さて、三つ目にご報告するのはマルケ州の環境についてです。先日私はアンコーナの名所の一つであるコネロ山に登って参りました。Monte Conero(モンテ・コネロ)と呼ばれているこの山はこの地域の特産であるRosso Conero(ロッソ・コネロ)という赤ワインの名前にも使われている重要な山です。というのも、マルケ州はアドリア海に面した「海の地域」の顔と、コネロ山やその他多くの山、山脈を抱える「山の地域」の顔を両方持っており、それが大きな魅力なのです。そのためワインも、海の地域の特徴と山の地域の特徴、それぞれを反映したものがあります。実際に山に登って高所からマルケ州を見てみると、そのことがよく分かりました。海の近さ、山に囲まれ、丘が多いという土地の条件と、アドリア海から吹く風、夏の高気温と秋の寒暖差など、質の良いブドウを栽培するのに適した環境があると感じました。冬でも比較的温暖なマルケ州とは違い、北海道には厳しい冬があり、春の訪れが遅いです。それがブドウの成長を妨げ、ゆっくりと時間をかけた成熟を難しくさせていると言われています。こうした環境の違いを理解した上で、北海道のブドウ栽培、ワイン醸造に生かせる部分、新しい知見となるものを持ち帰りたいと考えています。
エトルリア人の時代、つまり紀元前からブドウが育てられていたという土地や、数百年という単位で続いている街と食の営みという、日本には無い文化に触れ大変刺激になった10月の留学でした。また、まだまだ歴史的には若い北海道ではどのようなワインを作れるのか、どのようなワインが世界に通用するのか、それを考えさせられる一か月でした。

酪農学園大学社会連携センター(2017.11.06)|お知らせ, 全件, 国際交流, 現地レポート(留学)

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