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掲載日:2019.03.01

2018年度イタリア研修報告 マルケ編 その2

大学院 酪農学研究科 博士課程1年 髙橋 宗一郎

 1週間のマルケ州の滞在中、大学には2度顔を出し、Ciani(チアーニ)教授を初め、お世話になった人たちに会って互いの状況を話した。私が大学を離れるときに続けていた研究の経過や、彼らが書いた論文についてなど、色々と情報交換をすることが出来た。後から紹介する1軒のワイナリーも、大学で紹介してもらった所だ。
 マルケ州では、バローロを案内してもらった淳子さんに再びご協力頂き、2カ所のワイナリーを訪問した。1か所目は、マルケ州の有名なワイナリーUmani Ronchi(ウマニ ロンキ)である。このワイナリーの代表であるMichele(ミケーレ)氏と札幌でお会いする機会があり、「ぜひワイナリーを見学させてほしい」とお願いしたところ、二つ返事で快諾してくれたのがきっかけだった。
 Umani Ronchiは年間300万本を生産し、その内2/3を海外60か国に輸出する大規模ワイナリーで、マルケ州の土着品種であるモンテプルチャーノ、ヴェルディッキオの可能性を世界に広めたワイナリーとして評価されている。特にPelago(ペラゴ)という赤ワインは、マルケの土地に合わせて選んだ国際品種と土着品種によってつくられ、初ヴィンテージで数々の賞を受賞し、世界を驚かせた。
 ワイナリーに着き、畑を見せてもらいながら、各地域が持っている畑の特徴、栽培品種、栽培方法などについて、一通りの説明を受けた。一番良いグレードのワインをつくるCampo San Giorgio(カンポ サン ジョルジョ)は、石灰質の土地に、1haあたり8000本という高密度栽培をしている。ブドウの樹間隔を60cmと狭めることで、ブドウ同士の競争が起こり、根が深く張ることで、水分やミネラル分をより吸収するという。さらに、1本の樹からは2房、500~750g程度しか収穫しない。こうすることで、質の良い凝縮した果実を得ることが出来る。アドリア海が近いため夏は暑くなりすぎず、冬はコーネロ山が低気圧から守ってくれるため寒くなりすぎない、マルケらしい気候が生かされている。硫黄や銅といった基本的な施肥の他、雑草は刈り取ってそのまま放置する。こうすることで、清潔さを保ちながら、土壌に栄養を与えることが出来るという。
 大規模のセラーは、丘の形状を利用して作られており、入り口は地上なのだが実際には地下空間になっている。興味深かったのは、温度と湿度の管理を自然な形で行うため、セラーの壁にはレンガがはまり、下には小石が敷き詰められていた。そこにパイプで水を送り込むことで、ワインの熟成に適した湿度を保つのだという。
 見学を終えて、試飲させてもらうことが出来たのだが、Michele氏との繋がりのおかげか、好きな銘柄を選んで良いと言われた。お言葉に甘えて、泡、ロゼ、白に加えて、前述したCampo San GiorgioとPelagoまで試飲させてもらった。モンテプルチャーノ100%で力強いCampo San Giorgioと比べ、Pelagoはカベルネ・ソーヴィニョン55%、モンテプルチャーノ35%、メルロー10%という割合になっており、口当たりはこちらが軽やか。より果実的なアロマで、日本人好みの香りがありながら、モンテプルチャーノのパワフルさもあり、素直に美味しいと感じる味わいだった。そうして試飲をしていると、Michele氏が仕事の合間を縫って会いに来てくれた。とても物腰が柔らかく、紳士な男性で、また日本かイタリアで会うことを約束し、ワイナリーを後にした。
 今回の研修の報告は、Cantina Giulia(カンティーナ ジュリア)で締めくくりたいと思う。ここは、大学の友人に「野生酵母でワインをつくっているワイナリーで、見学させてもらえそうな所はないか」と相談した時に、紹介してもらった。Giuliaという女性が一人で営む小さなワイナリーでは、3haの畑から、年間5000本を生産している。Umani Ronchiとは対極的な、小規模ワイナリーである。クプラモンターナという地域の勾配が激しい道を行き、何とかたどり着いた私たちを出迎えてくれたのが、タンクトップ姿のGiuliaとその愛犬だった。小さな醸造スペースには、まだフレッシュなブドウの香りが充満しており、パチパチと音を立てながら、今まさにアルコール発酵が起こっているステンレスタンクがあった。発酵にはPied de Cuve(ピエ・ド・クヴェ 仏語)方式、つまり本格的な収穫の前にブドウを一部採り、前発酵させておく手法を取っている。3日間ほど発酵させた後、マスト(ブドウ果汁)に入れる。私たちが訪問した時には、2日目のPied de Cuveがあり、様子を見ることが出来た。こうするのは、年の初めだけで、2回目以降は既に発酵が始まったワインを一部入れることで発酵を起こしている。こうした自然な発酵は「個性が出る」一方で、発酵が終わりきらないというリスクもある。収穫が遅い、糖度が高い、冬が早いなど、条件が重なると翌年に再発酵するケースがあるとGiuliaは話していた。同じ手法を取り入れているCascina Roera(バローロ編その2参照)でClaudioも同じことを言っており、対処法も「翌年のワインの一部と混ぜ、発酵が終わるのを待つ」と共通していた。さらに、Giuliaは醸造、熟成に関して酸素との関わりの重要性を語っていた。適度に酸素と触れさせることで熟成に耐えられるようになり、また、亜硫酸の添加を最小限にすることが出来るという。Armando Parusso(バローロ編その3参照)のMarcoが頭をよぎったのは言うまでもない。
 石灰質、粘土質の畑は必要以上に手をかけることをせず、雑草は刈り取って放置し、銅など基本的な施肥のみを行う。ブドウの健康状態に気を配りつつ、グリーンハーベストによってブドウの品質を上げている。短い時間だったが、彼女の人柄、自然な生き方が、そのままワインづくりに通じているように感じた。ワインを飲むと作り手が思い浮かんでしまうようなところが、小規模ワイナリーの面白さだと私は思う。忙しい中、我々のために貴重な時間を割いてくれたGiuliaに心からお礼を言いたい。

 2018年イタリア研修の報告は、以上である。たくさんの方にご協力頂きながら、多くの学びがあった期間だった。おそらく、知識のようにすぐに生かせることと、これから少しずつ生かされる経験の両方があるのだと思う。
知れば知るほど、奥が深くなるワイン。この研修は、ワインを理解するための重要な基礎になったように思う。改めて、この研修に関わってくださった全ての人に、お礼をお伝えしたい。



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